星をたべる魚
宇宙の森には、金の翼をもつ魚が泳いでいた。魚は、星を見つけると食べていた。森の中にわずかの光でも見つけると、どこまでも泳いでいった。
そうやって星を何千年も食べ続けた魚の体は、しだいに大きくなり、光り始め ていた。その魚はますますたくさんの星を食べ、とても大きな体になっていった。
夜空をつかさどる女神シーラは、しだいに暗くなっていく森を感じていた。ある日、女神シーラが”星の楽”を奏でて喜びにみちていると、森の奥で音がした。
デーエ サリヤンモー
デーエ サリヤンモー
女神は光る星ギートに乗って、音のする方へ飛んでいった。大きな魚は女神を見ると、星を食べるのをやめ逃げ出した。女神は、夜空が暗くなった訳を知ると怒り、近くにあった星の輪を取ると、泳いでいく魚に投げつけた。星の輪は燦然と 輝きながら、シュル シュル シュル と、逃げる魚を追いかけていった。
海を泳ぐ魚の口からは、光る星がこぼれ落ちていた。 ゴームという唄好きの貝がいる。深い海の底にも星は落ちていった。
ボク モク モク モク モク ボク
星はここが夜空でないと知ると、星の国に戻りたかった。ゴームは星のそばにやってきた。星はゴームにたずねた。「どうしたら、この海から出られるでしょうか。」 ゴームは少し考えてから、海藻の森へ連れていった。
森は星の光に照らされ、あちらこちらから銀の粒が、ポッポッと音をたて、空 へのぼっていった。星はその柔らかなまあるい粒を、ひとつぶひとつぶ抱えこんでいった。それを見ていたゴームは歌いだした。
銀の粒をかかえる星
銀の粒をかかえる星
長い年月がたった。海藻の森にいる星にも緑の苔がついている。唄好きのゴーム貝はすでに死んで、海となっていた。それでも星は、粒を抱えこんでいった。
ある日のこと、星がひとつの銀の粒を取ると、海の藻が揺れ、星は上へふわっと昇った。どこまでも昇っていくと、海はしだいに青くなってきた。そして、海の上に星は顔を出すことができた。
空には鳥たちが住んでいた。鳥たちは、青い海に光る島があるので、不思議に思って飛んでいった。星は鳥たちがきたのでたずねた。「星の国に、どうやって昇ったらいいでしょうか。」
鳥たちは言った。「わたしたちには、星の国に連れていくことはできません。でも、一番高い、一番星に近い山に連れていくことができるかもしれません。」
鳥たちは、星の上にしっかりと止まると、はばたき始めた。すると海が波だち、星は空へ昇った。
雲をいくつも越えていった。雨の中も、鳥たちは必死に飛び続けた。もう飛ぶことのできない鳥もいた。やっとその黒い雲をぬけた鳥たちは、輝く白い山を 見た。鳥たちは、とうとう星をその高い山に連れていくことができた。
空に星があらわれる頃に、鳥たちは帰っていった。星は自分の国が見えるのがうれしかった。しかし、もうそれ以上昇るすべを知らなかった。
星は夜を楽しみにしていた。
そうやって星は、長い長い歳月をまたそこで過ごさなくてはならなかった。い つしか星は、その険しい白い山になっていた。時々星は、海になったゴーム貝のことや、空になった鳥たちのことを思い出し、悲しくなることもあった。
そんなある晩、輝く星が海に流れた。それから海は、昼でも夜でも光りつづけた。
白い山になった星は、とてもその星に会いたかった。
白い山になった星は、海に歩きたかった。
そしてまた歳月が過ぎていった。 いまでも高い山は、海に歩いているといわれている。