2020年7月24日金曜日

『星を食べる魚』(『宇宙の森の物語』より) 

ミティラー美術館活動を始める前に制作した絵本『宇宙の森の物語』より『星を食べる魚』をご紹介します。





星をたべる魚


 

宇宙の森には、金の翼をもつ魚が泳いでいた。魚は、星を見つけると食べていた。森の中にわずかの光でも見つけると、どこまでも泳いでいった。

そうやって星を何千年も食べ続けた魚の体は、しだいに大きくなり、光り始め ていた。その魚はますますたくさんの星を食べ、とても大きな体になっていった。

夜空をつかさどる女神シーラは、しだいに暗くなっていく森を感じていた。ある日、女神シーラが星の楽を奏でて喜びにみちていると、森の奥で音がした。

 

デーエ サリヤンモー

デーエ サリヤンモー

モホ モホ





女神は光る星ギートに乗って、音のする方へ飛んでいった。大きな魚は女神を見ると、星を食べるのをやめ逃げ出した。女神は、夜空が暗くなった訳を知ると怒り、近くにあった星の輪を取ると、泳いでいく魚に投げつけた。星の輪は燦然と 輝きながら、シュル シュル シュル と、逃げる魚を追いかけていった。

大きな魚は金の翼を折られると、あっという間に暗い闇に落ちていった。魚の口からは、たくさんの星がキラキラと夜空に飛び出した。どんどん魚は落ち、小さくなっていった。どこまでもどこまでも小さくなっていった魚は、とうとうひとつの星にある海の中に落ちてしまった。






海を泳ぐ魚の口からは、光る星がこぼれ落ちていた。 ゴームという唄好きの貝がいる。深い海の底にも星は落ちていった。

ボク モク モク モク モク ボク

星はここが夜空でないと知ると、星の国に戻りたかった。ゴームは星のそばにやってきた。星はゴームにたずねた。「どうしたら、この海から出られるでしょうか。」 ゴームは少し考えてから、海藻の森へ連れていった。

森は星の光に照らされ、あちらこちらから銀の粒が、ポッポッと音をたて、空 へのぼっていった。星はその柔らかなまあるい粒を、ひとつぶひとつぶ抱えこんでいった。それを見ていたゴームは歌いだした。

銀の粒をかかえる星

銀の粒をかかえる星

ボン モク ボン モク





長い年月がたった。海藻の森にいる星にも緑の苔がついている。唄好きのゴーム貝はすでに死んで、海となっていた。それでも星は、粒を抱えこんでいった。    

ある日のこと、星がひとつの銀の粒を取ると、海の藻が揺れ、星は上へふわっと昇った。どこまでも昇っていくと、海はしだいに青くなってきた。そして、海の上に星は顔を出すことができた。

空には鳥たちが住んでいた。鳥たちは、青い海に光る島があるので、不思議に思って飛んでいった。星は鳥たちがきたのでたずねた。「星の国に、どうやって昇ったらいいでしょうか。」

鳥たちは言った。「わたしたちには、星の国に連れていくことはできません。でも、一番高い、一番星に近い山に連れていくことができるかもしれません。」

そして鳥たちは、仲間をみんな集め始めた。しばらくすると、空は鳥でまっ暗になるほどだった。



 

鳥たちは、星の上にしっかりと止まると、はばたき始めた。すると海が波だち、星は空へ昇った。

雲をいくつも越えていった。雨の中も、鳥たちは必死に飛び続けた。もう飛ぶことのできない鳥もいた。やっとその黒い雲をぬけた鳥たちは、輝く白い山を 見た。鳥たちは、とうとう星をその高い山に連れていくことができた。

空に星があらわれる頃に、鳥たちは帰っていった。星は自分の国が見えるのがうれしかった。しかし、もうそれ以上昇るすべを知らなかった。

星は夜を楽しみにしていた。

 


 

そうやって星は、長い長い歳月をまたそこで過ごさなくてはならなかった。い つしか星は、その険しい白い山になっていた。時々星は、海になったゴーム貝のことや、空になった鳥たちのことを思い出し、悲しくなることもあった。

そんなある晩、輝く星が海に流れた。それから海は、昼でも夜でも光りつづけた。

白い山になった星は、とてもその星に会いたかった。

白い山になった星は、海に歩きたかった。

そしてまた歳月が過ぎていった。 いまでも高い山は、海に歩いているといわれている。