2020年7月26日日曜日

『星のけはいをかんじたねこ』(『宇宙の森の物語』より) 

ミティラー美術館活動を始める前に制作した絵本『宇宙の森の物語』より『星のけはいをかんじたねこ』をご紹介します。





星のけはいをかんじたねこ


 

むかし、エジプトのナイル川ぞいには、いくつもの小さな国々があった。そのひとつの国フィケロスは、アッテーラという若い王が治めていた。この時代には、大きなききんがいく度も人々をおそい、そのしゃく熱の太陽とナイルのはんらんは、そこに住む人々をとても苦しめていた。

アッテーラ王は、すぐれた天文学者たちを近隣の国々からまねいては、きき んのまえぶれを知ろうとしたが、だれも予言することはできなかった。




ある朝のことである。王は下臣に天文学者カンタラを呼ぶよう命じた。なにごとかとやってきた天文学者に、王は昨夜の夢のことを話した。それは、いままで知ることも聞くこともなかったような、たいへん輝く星のことだった。王はカンタラに、これはなにかの前徴ではないかとたずねた。しばらく玉の夢のことを考えていたカンタラは、最近きいた不思議な話をした。それは、砂漠の森にいる猫の話だった。猫のなまえはジペルス。そこは小さな人たちが住む国でもあった。




その猫ジペルスが、なにかのけはいを感じたようなしぐさをするたびに、 星空には銀の星が流れるということだった。

王はその国に使者をおくることにした。 使者はたくさんのおくりものと、 猫ジペレスがつける黄金の頭飾りをもって、ながいながい砂漠のたびに出た。




らくだにのった黒い少年ティルスと、黄金の頭飾りをつけたジペルスがナイルの国へむかったのは、それから数カ月ののちであった。

一弦の琴をひぐティルス、砂漠の星がきらめくたびにうたうジペルス。


ジータラ トキナ

ジータラ トキナ

サフュー タキナ

メーフィフィナ


かれらがフィケロスの国につくと、国中はわきかえった。王は宮殿から出てか れらを迎え、太鼓がうちならされた。そのひびきはナイルをこえ、となりの国にきこえるほどだった。少年ティルスは、やつれた人々が多いのにおどろいた。王はかれらを宮殿に招き、宴をもよおした。そこで王は、ティルスにききんのことを話した。吟遊詩人も、この国の不幸な命運をうたいだした。そしてその晩、少年ティルスは王に、ジペルスとこの国にとどまることを誓った。

宮殿の庭には、ジペルスたちがこのむ葉っぱの家がつくられ、かれらはそこ にくらすことになった。少年ティルスの役目は、猫ジペルスが星の不思議なけは いを感じたとき、天文学者たちに知らせることだった。





三年の月日がたった。ジペルスと少年ティルスは、いつものように、少年たちと草の上で遊んでいた。そんなある日、ナイルから昇ったまっ赤な大きな太陽が、フィケロスの国のま上にきたときのことである。猫ジペルスは、いままでなかったけはいを感じ、うしろの空を見あげた。少年ティルスは急いで天文学者た ちのところへ走った。それを聞いたカンタラは、さっそくそのことを王に告げた。玉はよろこび、太鼓を打ちならすことを命じた。

フィケロスの国の人々は、なにごとかと宮殿のまわりにあつまってきた。王は人々に、猫ジペルスが、この空になにかのけはいを感じていていることを話した。そして人々に、星があらわれたらみな外に出て、星空を見あげるように命じた。その晩フィケロスでは、国中の人々が星空を見上げた。そしてとうとう、だれからともなく、大きな星タレスの端に小さなオレンジ色に輝く星を見つけた。

そして数年ののちには、天文学者カンタラたちは、その星とききんとの関係をつきとめた。それからというもの。この国には、大きなききんがおとずれなくなったということである。